佐川急便の男性社員(当時39)が上司からパワハラを受け、6月に自殺したことがわかった。会社側はいったん社内調査でパワハラはないと結論づけたが、男性が亡くなった後の再調査で事実関係を認め、9月になって本村正秀社長が遺族に謝罪したという。
4日、遺族側の代理人弁護士が記者会見した。代理人によると、男性は東京都内の営業所でドライバー数十人を管理する業務に就いていた。所内の課長2人が他の社員らの前で男性を厳しく非難したり、メッセージアプリで「うそつき野郎はあぶりだす」「なめ切ってるな」といった暴言、左遷をほのめかす発言などを送ったりしていた。男性は3月には1年近く続けた担当の職務も外された。
2人によるパワハラを指摘する匿名の内部通報が4月にあり、社内調査が実施された。だが、部下への聞き取りもなく「パワハラに該当するような事案は確認できません」と結論づけられた。その後も休日に課長の一人が男性へメッセージを送るなどの動きを継続。男性は6月に亡くなった。
男性の死亡を受け、佐川急便は改めて外部の法律事務所に調査を依頼した。法律事務所は、会社の対応について「従業員が安全に働けるように職場環境を守るという『安全配慮義務』に欠けており、適切な対応を怠った責任がある」と指摘したという。佐川急便は「パワハラが自殺につながった一因と認識している」(広報)といい、遺族に対しては「誠心誠意、対応させていただく」という。
遺族代理人の川人博弁護士は、第三者による調査などには一定の評価をしつつも、男性が生前に業務過多を妻に訴えていたことに触れ、「パワハラを生む土壌には、会社全体の業務量やノルマに構造的な無理があるのではないか」と指摘した。(橋本拓樹)
佐川急便の社員だった男性の遺族は4日の記者会見に出席しなかったが、代理人がコメントを紹介した。おもな内容は以下の通り。
●男性の妻のコメント
あんなに明るくて仕事も楽しいと言っていた夫がまさかこんなことになるとは夢にも思いませんでした。どんなに辛(つら)かっただろうと、最期の気持ちを思うと本当に悲しくて立ち直ることはできません。
どんなに謝罪されてももう夫は帰ってきません。会社へは私たち遺族や従業員に対して誠実な対応を望みます。
もう二度とこのようなことがないように、今回のことを決して風化させないで欲しいです。
●男性の両親のコメント
今回のうちの息子に起きた事は、執拗(しつよう)なパワハラで息子を死に追い詰めた非道な事件と言っても過言ではありません。
加害者は最悪の結果になったにもかかわらず果たして罪として自覚しているのでしょうか?
佐川急便では、以前にも同様の事例が有ったと聞いています。それにもかかわらず再発防止に最善を尽くして来たのでしょうか?甚だ疑問です。全く教訓として活(い)かされてないですね。
親にとって突然の別れでした。眼は閉じて身体は動かず冷たく、頭から血を流した息子と対面したのです。何が何だか混乱して全く分からず呆然(ぼうぜん)、ただ死を受け止められず、現実に直面した今でも引きずって涙する毎日を過ごしています。
時が解決してくれる、そういう日が訪れるのでしょうか・・
大学を卒業して佐川急便に入社、39歳もうすぐ40歳目前でした。息子なりに仕事を一生懸命真面目に勤めた18年で会社に貢献してきたと確信しています。テレビの取材放映で、生き生きハツラツと仕事をしている姿を見て、頑張っているんだなと思えて誇らしかったです。まさか15年後こんな悲惨な目にあうなんて、何かの間違いであってほしかったです。
これは誰にでも起こる事、いえ、絶対に起こしてはいけない事なのです。皆が、自分が当事者にならなければ分からない事です。
我が子がパワハラによりうつ状態になって絶望し自殺するまで、親として力にもなってあげられず、何もしてやれなかった事が、悔やんでも悔やみきれないです。許せないのです。この事がどんなに辛く悲しいのか、会社には分からないでしょうね。
私たちのようなこんな残酷な思いをするのは、これで終わりにして下さい。猛省して下さい。息子の死を絶対に無駄にしないで下さい。息子の生きた証しを残して下さい。忘れないで下さい。
何物にも代え難いかけがえのない命より大切な物なんて無いのですから、胸に深く刻んで下さい。会社理念等に掲げている通り、笑顔でコミュニケーション、人に優しく、人を育てる会社を目指して下さい。
<息子へ>
母親として、生まれてきてくれてありがとう。でも、あまりにも惨(むご)い別れで棘(とげ)が胸に刺さったままです。
軽く扱われ過ぎている“命の重さ”。本当にもう会えないんだよね。
遺族の無念さを思うと、会社側の責任は重大である。
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